ケツァルコアトル
Quetzalcoatl

 
容姿・特徴 緑色の羽毛を持った蛇の姿で描かれる。人の姿で描かれる際は白い肌と黒い髪と髭。また、十字架で表される事もある。
出典 アステカ神話など
解説 アステカ文明に栄えた蛇神崇拝の主神。メソアメリカ中で崇拝された古く根源的な神。グアマテラのグクマッツ、マヤのククルカンと同一視される。
オメテトルとオメシアトルの息子で、一説ではテスカトリポカ、ウィツィポチトリやシペ・トテックという神が彼の兄弟とされた。
平和を愛し争いを嫌う心優しい神で、生贄は取らず求めるものはケツァールという鳥の羽毛と蝶だけだったという。
世界や人間を創造した神でもあり、テスカトリポカ(煤けた鏡)という神と共に世界を創り、エヘカオルという名でで冥界に赴き骨を持ち帰りそれに自らの血をかけて人間を創った。

人間に文明や知識を与えたのもまた彼である。火や、トウモロコシの栽培方法、神の祀り方など様々なものを事細かに教えた。
一説ではトウモロコシと共に神の飲み物・チョコラトル(チョコレートの紀元)を与えたのもケツァルコアトルだとされている。

彼は強力な力を持っており、岩を叩けば掌の跡がくっきりと付き、射る矢はどんな大樹をも貫き、岩を八方に投げれば地形すら変える事が出来た。そして喋る声は雷のように辺りに響いた。
ケツァルコアトルが人間に自分の意思を伝える時は「叫びの丘」に従者を行かせ叫ばせたが、その声も遠く高く鳴り響いた。

勢力を誇っていたケツァルコアトルの蛇神崇拝だが、やがて争いが盛んになると戦と疫病の神・テスカトリポカのジャガー崇拝の前に衰退していった。
ケツァルコアトルはテスカトリポカの策略により薬(麻薬とも幻覚剤とも言われている)を盛られ人々の信仰を失い、遂には国を追放された。
追放されたケツァルコアトルは従者に「『一の葦』の年に帰ってくる」と告げると船で東の方角へ去っていったという。
コロンブスがアステカに上陸した際に、アステカの原住民がコロンブス等に財宝を差し出したのは、彼等が十字架を掲げていて、そしてその姿が白い肌に黒い髭という人の姿のケツァルコアトルの特徴を持っていたため、ケツァルコアトルの伝説を信じていた原住民は抵抗しなかった。という逸話も残っている。

別な話では薪を積み上げその中で自分に火を放ち、残った心臓が天に昇り金星となったと伝えられている。また、その灰が空に舞い上がり降り注ぐとそれが輝かしい羽を持つ鳥になったという話もある。

中米・南米・北米は様々な部族があり、神話も個々の部族によって異なっているため一概には言えないが、主に雷雨や風、嵐の神、そして金星の神だと言われている。妻(または妹)はケツァルペトラトルとされている。
別名としては「エヘカオル(風の神)」「トラウィスカルパンテク(金星の神)」「セ・アカトル(夜明けの神)」「ショロトル(双子の神)」「ウェマク(強き手)」「白きテスカトリポカ」などと呼ばれている。
その名前や姿は多種多様となっている。

アステカには他にも蛇神がおり、狩猟の神であり天の川の呼称でもある「ミシュコアトル(雲蛇)」、ミシュコアトルの妻で誕生と死を象徴する地母神「コアトリクエ(蛇の婦人)」、トウモロコシと植物一般の女神「チコメコアトル(七匹の蛇)」、ケツァルコアトルとは対照的に、火の力と乾燥と旱魃などの暴力を象徴する「シウコアトル(トルコ石の蛇)」など、数多くの蛇の神々が存在していた。
参考文献 幻獣ドラゴン(新紀元社) マヤ・インカ神話伝説集(教養文庫) 世界の神話百科アメリカ編(原書房)

文責 : 白蓮
イラスト : kent.