ベーオウフルのドラゴン
Dragon in Beowulf

 
容姿・特徴 蝙蝠のような翼を持った大きな竜。知能を持ち炎を吐く。
出典 叙事詩「ベーオウルフ」
解説 解読できる最古の叙事詩「ベーオウルフ」に登場する竜。英雄ベーオウルフの最期の戦いの相手である。
作中では単に火の竜(Fyr-Draca)とだけ呼ばれ、名は無いようだ。

竜は洞窟の中に異教徒の古き財宝を蓄えていて、その上で宝を愛で、守護していた。
宝を守る事を喜びとしていたため、自ら人間を襲いに行くという事は無かったようだが、翼で空を飛び炎を吐く竜は当然恐れられ、人々は洞窟に近づかなかった。そうやって竜は三百年もの間、洞窟の中で宝を抱えていた。洞窟に住むようになった時は地の竜(Eordh-Draca)と呼ばれた。

しかしある日、山に逃げた奴隷が洞窟の中の宝を見つけ、竜が眠っているその隙に一つの金杯を盗み出した。
眠りから醒め、自分の大切な宝が人間に奪われた事を知った竜は怒り狂い、夜になると町の上を飛び回り、炎を吐いて人々を恐怖に陥れた。

英雄であり王であるベーオウルフは老いていながらも竜と戦う事を決意し、竜との戦いに赴いた。その時、ウィーラーフという若者だけはベーオウルフに加勢した。
ベーオウルフと竜の一騎打ちは凄まじく、竜は焼き殺そうと炎を吐き、ベーオウルフは剣を振るう。
ベーオウルフの剣・ネイリングは竜の眉間に突き刺さるが折れてしまい、その時ベーオウルフは竜の攻撃を受けてしまう。
武器を失ったベーオウルフは炎に焼かれながらも竜の首を締め上げ、ウィーラーフが竜の腹を切り裂き倒した。
だが、竜の炎で焼かれ、毒牙で貫かれたベーオウルフも傷の深さと毒により息を引き取った。
竜の死体は海へ投げられ、ベーオウルフは「鯨岬」と呼ばれた場所で火葬され、そこには海から見える塚が作られた。
こうして英雄と竜の生涯は幕を閉じたのだ。

北欧叙事詩「ベーオウルフ」に描かれているのは翼を持ち炎を吐く竜の姿である。かつての古い時代の竜は蛇の姿で描かれ、その多くは海や水害に関連している。
しかしベーオウルフに描かれる竜は翼と炎というものを持っている。この典型的な「ドラゴン」の姿を持つ竜はベーオウルフの竜が最古であると推測され、後世の「ドラゴン」のイメージの根源とも言える。
参考文献 幻獣ドラゴン(新紀元社) 他

文責 : 白蓮
イラスト : らいおん