ヴリトラ
Vritra
容姿・特徴
巨大なコブラ、巨人という説も
出典
「リグ・ヴェーダ」「マハーバーラタ」他
解説
アヒ、ダーナヴァ龍と呼ばれることも。
7つの大河をせき止め、閉じこめていたとされる巨大な怪物。悪魔の首領
ヴリトラとは「障碍」の意。
ヴリトラとインドラの戦いに関する神話は幾つか残されている。
「リグ・ヴェーダ賛歌」には、インドラがヴリトラを殺し、水を穿ちいだし、山々を切り裂いて、7つの川を解放したと歌われる。
その中の「肩を拡げたる最も頑強な障碍」という表現から、威嚇姿勢をとったコブラの姿であろうと考えられている。
雷、暴風雨を象徴するのアーリア系天空神であるインドラに対し、河川や水を司る先住民系の地下神なのではないかとされている。
「マハーバーラタ」では、悪魔の首領とされており、ヴィシュヌの力を借りたインドラに、聖者の骨から作られた「ヴァジュラ(金剛杵)」で撃ち殺される。
また同書には、インドラに息子を殺された巧工神トヴァシュトリが、インドラを殺すために火中に供物を投じて作り出したとも書かれている。
インドラを殺すように命じられたヴリトラは、彼に戦いを挑む。戦いの末、ヴリトラはインドラを捕まえ飲み込んでしまう。インドラは、ヴリトラに欠伸をさせて外へ飛び出すことが出来た。戦闘はなおも続いたが、ヴリトラの力は非常に強大で、インドラは退却せざるを得なかった。困った神々は、ヴィシュヌに助けを求める。
ヴィシュヌは、まずヴリトラと和平を結び、その後に策略によって、彼を殺すように助言した。
神々は、甘言を用いてヴリトラを説得し、平和条約を結ぶ。その際、ヴリトラは「乾いたもの、湿ったもの、岩や木、ヴァジュラによっても、昼も夜も、インドラと神々は攻撃しない」という条件を出した。神々はそれを受け入れた。
それからインドラはヴリトラを殺す方法を考え続けていた。ある日の明け方、ヴリトラが海岸にいた。それを見たインドラは、今ならば昼でも夜でも無いから殺すことが出来ると考えた。すると、海上に山のような泡が現れた。その泡は乾いてもいないし湿ってもいない。そこで、インドラはその泡をヴリトラに投げつけた。すると、ヴィシュヌがその泡に入り込み、ヴリトラを殺した。
インドラは、卑劣な策を使ったことを悔やみ、世界の果てに隠遁してしまう。
「リグ・ヴェーダ」中にも同様の話が見られるが、殺されるのは違う名前の悪魔であり、ヴリトラではない。後に2つの話が混同されたのでは無いかといわれている。
参考文献
インド神話(東京書籍) アジアの龍蛇 造形と象徴(雄山閣出版)
文責 : さゆら
イラスト : G.River